夢の中のできごと

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とても素敵な夢だった。
その夢はとてもなまなましくて、目を閉じるといつでも思い出すことができる。
これは僕が見た夢の話。
けっして現実と混同しないでほしい。
夢の国のそのまた夢の場所。ネズミの国には会員制の秘密クラブがあるという。その広大な敷地の中で、唯一お酒が飲めるクラブ。その存在は秘密のベールに包まれ、入り方はおろか、その場所すらも謎とされている。
妻との7度目の結婚記念日、僕たちはその秘密クラブにてささやかな祝いの時を過ごすチャンスに恵まれた。
これまで数々のサプライズ系イベントを企ててきた僕のことだからと、今回の結婚記念日の食事は妻にとってそれなりに楽しみだったに違いない。やれ今年はどこで食事をするの?だとか、人前で祝われるのだけは勘弁してくれ、だとか、当日がボクの仕事の休みと重なっていただけに、妻の期待度がそれなりに高かったことは容易に想像できた。
その日の夕方、ドレスアップした我々は荒川上流部にある自宅を出て、川沿いを南に下った。
助手席には「どこに行くの?」と小首を傾げる妻。
場所は言わない。
「食事に行こう」
ただそれだけ。ひたすら海に向かう。
やがて車は見慣れた駐車場へ到着した。
いつもの駐車場のいつものゲート。
普段は駐車料金を払って誘導されるまま車を止める。
だけど今日は違う。
行き先と予約名を告げると、別のルートを案内されて、入り口の一番近くへ。
ほとんど歩くことなく、入り口にたどり着いた。
何事が起きたのかまるでわかっていない妻。
それもそのはず、今日は夢の中なのだから・・・。
大きなクリスマスツリーがある路地を抜け、いつもは開くことのない扉の前へ。
まだ冗談だと思っている妻。
だが、その扉が内側から静かに開いたとき、妻の体が驚きのあまり3メートルばかり飛び上がった。
それもそのはず、1ヶ月ほど前にここに来たとき、「いつかここで食事をしたいね」と話したばかりの夢物語。ボクの演出はこのときから既に始まっていたのだ。
僕たちは案内されるまま、夢の中のそのまた夢の世界へ。
中は思ったより広く、数組のグループが食事を楽しんでいた。
「お飲物は何になさいますか?」と差し出されたメニューには世界の銘酒がずらり。
本当にお酒が出るのだ。
ボクは迷わず生ビールを注文した。
「ここでナマ飲むの、夢だったんだ。」
妻も生ビールを注文。
「わたしも・・・」
だんだん恥ずかしくなってきたので、このさきは省略を。。。。
クリスマスの特別メニューとして飾られたフルコースの食事が進み、白と赤のワインをそれぞれ1本ずつ空けた頃、とある時間が近づいてきた。
今まで閉まっていたカーテンがするすると開き、店内の照明が落とされる。
「何が起こるのだろう・・・」
答えはすぐにわかった。
その時間その施設では、何百万個という電球で装飾された乗り物が園内を練り歩く催し物がある。
外は木枯らしが吹く寒い夜。
何千人という人たちが寒さに震えながら鑑賞しているに違いない。
僕らもいつもは場所取りをする。
最前列を押さえるためには1時間も前から並ぶんだ。
だけど今日は違う。
食事を楽しむ僕らの前を、まばゆいばかりの光に包まれた車列がゆっくりと通過していく。
あり得ない世界。いや、本当は無いのかもしれない。すべては夢の中の出来事だから・・・。
・・・・・
あまりにも贅沢な夢の時間を過ごした。
だけど、時は無情に過ぎ去り、施設の閉園時間が迫ってきた。
いつまでもこのままでいたい。
どんなに強く願ってもそれは無理な話。
なぜなら、ここは夢の中だから。
食後のコーヒーを飲み干すと、僕たちは後ろ髪を引かれる思いでこの席をあとにした。
夢のドレスに包まれた美しい女性に見送られ、背後で重いドアがゆっくりと閉まる。
振り返ると、そこにはもう二度と空くことのないあの夢のドアがあった。
「夢だったのかな。」
「きっと、夢だよ。」
「楽しい夢だったね」
「なんか、乗ろうか」
7度目の結婚記念日。
そんな僕たちの手には、夢のかけらが握られていた。
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